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福岡高等裁判所 昭和24年(つ)263号 判決

控訴人 被告人 栗田等

弁護人 鶴和夫

検察官 山田四郎関与

主文

本件控訴を棄却する。

当審の未決勾留日数中三百日を原判決の刑に算入する。

当審の訴訟費用は被告人の負担とする。

理由

弁護人鶴和夫の陳述した控訴の趣意(弁護人荒新木一提出のものは)別紙の通りである。

同第一点に付いて。

記録を調べて見ると被告人は昭和二十四年六月二十八日附起訴状記載の窃盗(原判決第四の事実に該当)の嫌疑で逮捕され同年八月二十日に至り副検事に対し右窃盗の外同月二十二日附起訴状記載の犯罪事実(原判決中第四の事実を除くその余の事実)を自白(なお同月十三日巡査に対し既に自白している)し原判決は右供述調書を証拠の一として採用していること洵に明白である。

しかしながら本件公訴事実はその数多数であり被害者の数も少くない上共犯者も存することであるから犯罪事実全部の自白を得るまで五十三日の勾留日数を経過したとしても直ちに不当な長期の勾留とは云えない。又被告人が副検事に対する自白に先ち論旨摘示のように述懐していることは事実であるがそれは未決にあつて静かに家庭のこと等考え前非を悔い今度こそ真人間になろうと決心し真実を申上げる気になつたとの趣旨であつて決して長期の勾留に堪え兼ねて真実に反して自白するとの趣旨でないこと同調書を冷静に通読すれば明白であり、又同調書犯罪事実の自供は弁護人主張の如く決して抽象的で無内容なものではない。

従つて原審が右調書を証拠として採用したことは決して論旨に摘示の憲法及刑訴の法条に反するものでないのは勿論事実誤認又は理由不備の疑問を抱かせしめる余地がない。従つて論旨は理由がない。

同第二点に付いて、

記録を精査してみても原判決の刑が重きに失するとは思われない故本論旨もまた理由がない。

よつて刑事訴訟法第三百九十六条第百八十一条第一項刑法第二十一条を適用し主文の通り判決する。

(裁判長裁判官 島村広治 裁判官 後藤師郎 裁判官 青木亮忠)

控訴趣意書

第一原判決は事実誤認理由不備の違法がある。原判決は事実理由第二、第四に於て被告人が福本仁今村辰雄等と共謀して窃盜した事実を認定しその証拠として、一、被告人の当公廷に於ける供述、一、被告人の副検事に対する昭和二十四年八月二十日付供述調書後略を採用して居る。

然し被告人は右事実に関し警察、検察庁、第一回公判を通じ昭和二十四年八月二十日検察庁に於る取調に至るまで矢野福本今村等との共謀による窃盜事実を極力否認して居たのであるが右昭和二十四年八月二十日突如「家庭の事を考え――以下文字不明――未決勾留されてゐる事をつくづく考えまして今度改心して真人間にならうと思ひ一切を申上ぐる旨」(記録第一八七丁裏八行目以下)冐頭して犯行を自白して居るのであるが、その自白たるや極めて抽象的で行為の具体的内容には全然触れて居ない。只何年何月何日何処に於て誰と共に何々を盜んだと云うに止まり否認後の自白としては自白の体を為して居ない。

惟ふに被告人は昭和二十四年七月十日に逮捕され同年六月二十八日第一回の起訴があり、同年八月二十日被告人の自白を俟つて同日第二回の起訴があるまで、実に五十三日間実質上捜査のため勾留がなされて居るのである。斯る長期間の勾留の後に於ける「未決勾留されて居る事をつくづく考えて」の自白は憲法第三十八条第二項後段及刑事訴訟法第三百十九条に所謂不当に長く勾禁された後の自白に該当し、之を証拠とする事はできない。而して原審第二回公判廷に於ける被告人の自白も亦同一の心境に立脚したものである事明である。果して然らば原判決は憲法上刑事訴訟上禁止されて居る被告人の自白を証拠として事実認定の資料に供して居るものであり、到底破棄を免れないものと信ずる。

第二原判決は刑の量定が不当である。

原判決は被告人を懲役三年に処して居るのであるが被告人は大正十三年及び昭和四年に同種の前科があるに過ぎない。また主犯とみられる福本仁今村辰雄等は逮捕を免れて居り謂はば被告人が彼等の犯行に対する責任を一人で背負つて居る観がある。

尚被告人は昭和二十四年六月十日以来一年有余の期間未決拘禁されて居るのである。

原判決破棄の上相当減刑あらむ事を切望する次第である。

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